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1970    富山県氷見市生まれ

1993    武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業

2013 国際ガラス展・金沢2013 審査員特別賞 受賞

2014 Bullseye Glass E-merge2014 Kilncaster Award / USA

2015 ‘15日本のガラス展 JGAA賞(大賞)受賞

2016 University of Sydney 留学/オーストラリア 

2017 東京藝術大学 平山郁夫国際文化賞 受賞

2018 アメリカ Bullseye Glass Portland アーティストインレジデンス

2019 東京藝術大学大学院美術研究科

    工芸専攻ガラス造形領域 博士号取得

工芸論の動態vol.2-1_20231103-1224
工芸論2023_DM2

電気炉の蓋を開ける時のドキドキは私を夢中にさせた。自分の手から一度離れてしまう不安はゆっくりワクワクに変換されて、熔けて姿を変えたガラスを迎える。そんなガラスと向き合うことが面白くてたまらなかった。ガラスが柔らかいかたちに変わる、ただそれだけのことに新しい世界を見るような期待感で満ちていた。

ある時期から作ることが窮屈になった。何を作っても想定外のことが起こらなくなって、つまらなくなった。できることが増えた代わりに、ガラス制作への新鮮な驚きや心揺さぶられることが減ってしまった。テクニカルな経験が邪魔する苦しさともどかしさ。惰性で作る辛さは一層こころ曇らせて、作れば作るほど後悔する。徐々に作り出すものに執着がなくなってしまった。

時間をかけて身につけたものが重くて、自由を奪っていることに愕然とし、大きなショックは反動になって、それを振り解きたくなった。慣れた環境と技法を放棄し、知らないところでもがいてみることに賭けた。

何もできない自分がつくる時間は、考えるまえにやってみることを繰り返すしかなくて、できないものはできないし、思い通りにならないことばかり。疲れ、落ち込み、悩み、うまくいかない日々が過ぎた。何のために作るのか何がしたいのか疑問だらけになった。

あるきっかけでガラスのしごとを文章化することになった。「なぜガラスを作るのか」を人に伝わるように書くことは自分を振り返る作業だった。いったい何がしたいのか、何が苦しいのかを書き出して少しずつ言葉は膨らみ、文章整理を繰り返すことでガラスへの思考は動きはじめ気づかなかった意識をあらわにした。

ガラスとの付き合い方を多方へ変じ、そのたびにやってくるさまざまな問いに添うことができるのだろうか。ガラスからの答えを受けとめながら次の制作へ向かう時は未知で道筋などあるはずもなくひたすらガラスとのかかわり方を探る作業に没入する。

熱によってガラスは動く。ただ自分ができることはガラスの動きを止めることだけだ。ガラスには「始まりと終わり」が同時に見えている。それらがつくり出す強い緊張感と昂ぶりを形として表したい。溶けて変化したガラスの生み出す世界は、静と動が共存したゼロの地点を現わす。じぶんのガラスは、常に動き続け揺らぎ続ける感情そのものでありまた、矛盾をかたちに溶け込ませながら新たな均衡点を見つけて行く仕事だと思う。

近岡 令

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